サクリファイス
「俺は嫌だ、帰る」
”僕だって嫌です”
電話口のI先輩の言葉に続きあたしも答える。
今日から仕事始め。
大抵の企業は午前中でサクっと帰るらしい。
だがブラックだからかどうなのかはわからないが、ウチは今日からみっちり一日稼動、そしてどーゆうワケか終業後に新年会を催すらしい。
平日からアホか。
それだけならまだしも、当日の朝になってから支店長の独断と偏見で選ばれた各課の代表が隠し芸を披露し、ウケが悪ければその場で酒を一気飲みというまるで馬鹿大学生の乱痴気騒ぎのようなお達しが正式に来たから、白羽の矢が立った人はさあ大変。
ウチの課ではあたしとI先輩が当選し、さてどうしようか…という話が冒頭だ。
「そもそも俺達は仕事をしに来てるんであって、会社の人間を笑わせるのは仕事とは違うだろ」
”ですねぇ”
「それにイキナリそんなコト言われて準備しろと言うのが無茶苦茶だ。そんなのは暇人か、支店長がやればイイ。ここでヘラヘラして皆がやるから駄目なんだ」
”明らかにパワハラ、アルハラだと思います”
「よし、じゃあ一緒に帰るぞ」
”ですねぇ~別に今更支店長に睨まれても(どうせ辞めるから)どうって事ないですし…”
と、課内の隠し芸担当で共謀し、新年会をばっくれようという事になった。
大体の得意先を回り、帰社。
I先輩は早速不満を鬼上司M課長にぶちまけ退散。
さて、あたしも言うときは言わないとな…と席を立とうとした瞬間、得意先からのトラブルの連絡が入った。遠くでは鬼上司M課長が、見てない振りをしてバッチリ見ている、聞いている。
あの目は「お前俺に何か報告する事があるんじゃねえか?ああ?」と言っている目だ。
Ohなんてバッドタイミング、逃げるきっかけを完璧に逸した。
仕方がないので、事の顛末を伝えると―――――
「まぁそれは明日でいいだろ、お前はこれから新年会に行くんだもんな?」
”え?ええっと……”
「な?」
”そうですねぇ、もう明日ですよね~”
言いたい事も言えないこんな世の中じゃ。
カテゴリ : 日記